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ウソの音でも効果があれば効果音。
これは私が勝手にそう思っているだけですが、事実大昔から行われていたことです。サイレント映画からトーキーになったばかりのころの時代劇。砂浜に打ち寄せる波の音が小豆を竹かごの中で揺らしていたという話。擬音と呼ばれるものです。
こうした昔ながらの擬音は作っていて楽しいものです。なぜ楽しいのか。それはとんでもない音がそっくりになるから面白くてやめられないのです。それでは私がやってきた中のいくつかを紹介します。
【そよ風を作るには】
台風のように強い風の音ならば、直接録音すれば前回のサンプルのように、本物の迫力あるものが録れますが、そよ風はどうでしょう。
すぐに近所の原っぱへ出かけてマイクを向けましたが、『ボボボボッ』と風にあおられた不快な音しか録音できませんでした。
そこで閃きました。そよ風をイメージさせればいいのだと。
できたのがこの音。
風そのものではなく、脳に焼き付いている『風』のイメージを引き出せばいいのです。月夜を描くのにお月様を出すのではなく、暗い夜道に光と影を描けば見る人が月夜をイメージしてくれるのと同じです。
では、このサンプルで聞こえてくる『カサカサ』という音は何だと思いますか?
これは本物の草のなびいている音ではなく、要らなくなったカセットテープの中身を引っ張り出し、軽く固まりにしてマイクの前でそれらしく揺さぶっているだけです。いわばゴミですね。その音と前のページで聞いていただいた台風の音を、かなり音量を下げて重ねているだけなのでした。この方法の利点はイメージに近づくまで何度でも録り直しができるところですね。
【焼肉焼いても肉焼くな】
ほとんど意味不明の標語モドキですが、『ステーキを焼く』音と『雨の景色』をイメージする音を作ったことがあります。
まずはステーキからです。
晩御飯と録音を兼ねて、分厚い牛肉を買ってきてもらいました。もちろん分厚い方がいい音になるからとウソまで吐いて、それを焼けた鉄板の上に置いて録音開始。
いい匂いもたち込み最高です。こんな録音なら毎日でもいい。なんて思いつつ、焼き上がってから音を聞いてみたところ、何か物足りないのです。
『ジュ~ジュ~』という音に迫力がなく、ウソっぽく聞こえるのです。もう一度録り直したかったのですが、そう何度もステーキを食べる金銭的余裕もありませんし、何しろ我が家には怖い人がいますし。
で、何かいい方法はないものかと……。
思いつきました。これです。
香りまで感じてもらえたらとてもうれしいです。なぜなら。これって、『ティッシュ』ですから。
ティッシュをどう使ったのか、種明かしをしますと、ステーキと同じ厚みにしたティッシュを水にどっぷりと浸けてから塩をまぶし、油を引いて充分に焼けた鉄板に置いただけです。
しかし本物の牛肉より派手にシズル(sizzle)音がほとばしり大成功でした。オマケに昨夜の残り香まで立ち込めて思わず、じゅるる。
ところで、水に浸けたティッシュに塩をまぶした理由は、少しでもホンモノに近づけるべきだろうと思っただけのことです。
【晴天だって雨音が欲しい】
次の音はこれ……。
雨の古都をイメージしてもらえたら万々歳。べつに古都である理由はないのですが、これも種明かしをするとひっくり返りますのでご用心。
これは唐揚げをしているときの録音を【ダイナミクス】で音全体に厚みを増して作ったまったく関係ないものに、家の近所で鳴いていたモズの鳴き声を重ねました。
もちろん雨なんて降ってませんから……。
せっかくのイメージを潰して、ほんとすみません。
『煮る』を録るなら、レトルトカレーです。
おっと、袋を開けて煮たらだめですよ。水っぽくて食べれたもんではありません。
鍋に水を入れて沸騰させたら、その中へレトルトカレーを袋のまま入れます。それからスプーンなどで少し押さえつけるといい感じでグツグツ音を出してくれます。
カレーは?
知りませんよ。お好きなように……。
水の量で雰囲気も変りますので、これなら安上がりのうえにいつでもできますのでぜひお試しを……。
これはどうかな?
プロペラ飛行機が頭上を飛んで行ってくれたら嬉しいです。
でもこれ消えそうなほどに炎を絞ったカセットコンロの音ですから。ざんねん。
我が家にあるコンロは古いからかもしれませんが、消える寸前にまで持って行くと一部の穴の炎が消えたり点いたりを繰り返します。そのときの音をピッチベンダーで音程を変化させているだけです。
まあ、加工すればプロペラ機の音になると踏んだ私の閃き勝ちですね。
他にもドライアイスをお風呂に入れたらどえらいことに。良い子はまねしないでね。少量なら録音しておくべきですよ。
泡の音あれこれです。
テニスのボールを打つときの歯切れのいい『パコ~ン』という音ですが。
テニスコートに一度も行かずして作ったことがあります。
音自体はTVなどで聞いていますのでイメージはつきます。なんならクチで真似するとこともできます。
クチ?
効果が出れば何でもいい……。
確かにページの最初に述べましたね。口から出る音だってサウンドには違いないのです。
はいこれです。
マイクに向かって唇を閉じて「パッ」と音を出しながら口を大きく開ける、これがテニス音を作るときの奥義です。人にはけっして見られないでください。
人格が一瞬にして崩れ去ります。だから布団をかぶってこっそりやりました。
はい、もう一丁。
次は古典的な擬音です。卵の殻を握りつぶすと物をかじる音になるというやつです。
ではほんとうにおせんべいをかじる音と比べてみます。
これが卵の殻で作った音。
これがホンモノ。
ほとんど違いが分かりません。ということは卵の殻でかじる音は作れるという結果になりますね。ただ、マイクの前でおせんべいをかじる方が手軽だと思うのですが……。
最後にもう一つ。これは馬車が目の前を通る音のイメージですが……さて何でしょう?
なんと、未開封のカップうどんのフタの部分を指の角でグルグル回している音でした。
【フィルターもエフェクトです】
擬音であれ、宇宙的な不思議なイメージ音であれ、せっかく楽しく作ってきたのに、不必要な音が混じっていて使用を断念するときの悔しさはひとしおです。
昔なら録り直しか、あきらめて他の方法を模索するしかないのですが、今はそんなのも何とかなる時代になりました。
必要なのは、フィルターとイコライザー、ノイズリダクション系のエフェクトです。
これらは音の高さや長さを変化させるのではなく、音を構成する成分を変化させて違ったものにします。海岸を撮った写真の中で青色を強めにして目に鮮やかな海の写真に加工したり、風にあおられて空を飛んでいるゴミ袋を写真加工ソフトで消し去ったりすのと同じもののサウンド版です。
Auditionではプロ級のツールが付属しており、目を疑う……あ、いや耳を疑う処理が可能になっています。そんな中の一つを使用してみます。
まずこれが録音直後の原版です。音を聞いてみてください。
耳障りな『ポォー』という音に混じって、不思議な感じで『ポリリリリ』という音が出ています。
これは【宇宙へ出かけよう】にも出てきましたが、soundForge7のエフェクトの一つ Wah-Wahを必要以上に掛けると『ピチュッ』と鳴りだすという現象があります。それを 880Hzのサイン波に掛けながら、パラメータを動かすと『ピチュッ』が連続的に変化して『ポリリリリ』という音を出すようになります。この感じがとても心地よくてテロップなどが出るときに別の音と混ぜて使いたいのですが、どうにもジャマな『ポォー』という音が混じっているのです。
そこでなんとかこの『ポリリリリ』音だけにしたくて奮闘した方法を紹介します。
まず先ほどの原版にうるさく入っていた『ポォー』だけを消します。
Auditionには 数多くのフィルターやノイズリダクション処理があります。『シャー』というヒスノイズは【ヒスノイズ除去】や【ハンマーノイズ除去】、『ブーン』とうなる機械音などは【クロマノイズ除去】などを使うと驚くほどにきれいさっぱりと消し去ってくれます。これらはウインドウメニューの【エフェクト】→【ノイズリダクション】の中に並んでいます。
今回のように音の正体がはっきりしている場合は【ノッチフィルター】が便利です。
【エフェクト】→【フィルターとイコライザー】→【ノッチフィルター】です。
押すとこのようなパネルが出ます。
パネルには小さく番号の振られたポイントが並んでいますが、これがターゲットポイントで、対象とする周波数を指しています。さらにこの音を何 dB変化させるかをポイントの上下で決めることができます。
【有効】と書かれた番号(ピンク枠)をクリックすると、対象とするポイントの数を調整できます。今回は『ポォー』という音が 880Hzだと解っていますので、ポイントは2つもあればいいと思いますので【3】番と【4】番を使って、次のように設定しました。
ループ再生にして音を鳴らしながらポイントを調整するとより操作しやすいです。あるところで急激に『ポォー』の音が消える場所があります。今回は想像どおり、840Hz周辺から 880Hzをターゲットにしたときに消えましたので、適用ボタンを押します。すると、
このように一気に激変です。『ポォー』音だけが消えました。
このままでは音が小さいのと無駄な無音が目立ちますので、ノーマライズで音割れ直前の 0dBの90%まで上げて必要な部分だけに整理します。
これが『ポリリリリ』音の本体です。
音を聴いてみてください。
飛躍的に良くなったのですがまだ少し『ポリリリリ』と鳴る中に『ピィー』と小さな音が潜んでいます。これも消すことができます。
この『ピィー』と鳴る音の周波数が不明ですので、先ほどの【ノッチフィルター】ではやりずらいです。そこでさらにピンポイントにターゲットを絞ることができる【FFTフィルター】を使います。【ノッチフィルター】と同じ、【フィルターとイコライザー】→【FFTフィルター】を開きます。
このようなパネルが出ます。
直線にポイントを打つことで任意の周波数を決めることができ、ポイントを上下させてレベルを調整するタイプです。ポイントはいくつでも打てますので、【ノッチフィルター】より自由度が上がります。
まずだいたいの帯域だけレベルをゼロにして、『ピィー』音の周波数帯を探ります。ポイントを左右に動かして音が聞こえなくなったら、その中に『ピィー』音の周波数帯があることが解ります。
それを徐々に狭くして最終的には『ピィー』音を消し去ろうという作戦です。
ループ再生で音を聞きながらポイントを動かしていくと……。
この位置で『ピィー』音が消えました。この帯域のどこかにあるということです。
ただ、肝心の音も一部消えてしまいましたので、この範囲をもっと狭めていきます。
すると、
左側にポイントを一つ増やして、そのポイントを『2900Hz』以上にすると『ピィー』音が出始めましたのでここを下限として、こんどは右側の高域を徐々に下げていくと、
これが下限と上限の範囲となりました。まだ絞れるはずですので、真ん中あたりのレベルを上げて、下限の帯域と上限の帯域に絞ります。
これがラストです。
この状態で少しでもポイントを動かすと『ピィー』音が鳴りだします。つまり、2.9kHz周辺と 4.4KHz辺りに『ピィー』の音成分があることが分かりました。この部分だけレベルを最低にして適用すると、
これで『ポリリリリ』音の完成です。
こうしてデジタル技術を利用して作られた音だって効果的に使えば SEです。それを使って映像に迫力が出るのならどんどん積極的に作るべきでしょう。
次のページではアニメ映像に音を合わせる作業をご紹介します。
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