お品書き
- ・ 初めてのCINEMA 4D Lite
- ・ 複雑怪奇なマネージャ構成
- ・ 混乱するショートカット
- ・ クセがすごいぞ C4D L
- ・ ライトと影と反射物
- ・ カメラ
- ・ AEとの連携
- ・ ヌルはヌルなのに。レイヤーはなぜ?
- ・ 回転は迷宮への路 その1
- ・ 回転は迷宮への路 その2
- ・ 回転は迷宮への路 完結
- ・ マテリアルと投影法 その1
- ・ マテリアルと投影法 その2
- ・ マテリアルと投影法 完結
- ・ 様々な物体を作る
- ・ 太陽系を作る
- ・ ブタさんを作る
- ・ モーグラフを使う
- ・ PCBを作る
- ・ デフォーマを使う(波打つ廊下)
- ・ 枯れ葉よ~
- ・ ペーパーアニメーションを考える
- ・ アナモルフィック
- ・ 平行投影
- ・ 球体鏡の内部へ
- ・ もしも鏡がうねったら
- ・ ファンタジーな世界を作ろう1
- ・ ファンタジー(2) カメラワーク
- ・ カメラを滑らかに走らせる
- ・ トラブルコレクション
- ・ Cinema 4D Lite FAQ
- ・ My Portfolio
3Dのショートショート その3【球体鏡の内部へ】
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【球体鏡の内部へ】
ずいぶん前の話になりますが、江戸川乱歩の短編小説にも出てくる球体の内部が鏡になった入れ物に入って明かりをつけたらどんな世界が待っているか。という話を実際に再現したテレビ番組を見たことがあります。
うすら覚えの記憶ですみませんが、入った人の立体映像が反対になって浮かんでいるはずだということで実験が進められていくのです。でも球体の鏡が完全でなく、なんとなくそれらしいのが映った……で終わっていたような気がします。
昔から鏡は特別な意味を含んだ物で、映しだされたモノは左右が反対になっているのはご存じのとおり。中でも合わせ鏡の奇妙さは、物理的な説明とは違った神秘性を帯びた何かを感じます。無限に続く自分の姿の奥深くにもしかしたら違うものが映っているのではないかとか、最も奥の顔が死ぬときの顔だとか。午前 0時に合わせ鏡をすると悪魔が通過するとか。いろいろと語られているのは身近で見ることができる不思議な現象だからでしょう。
そんな鏡を球体にして空間を閉じ込めてしまうのです。光が入らなくなった内部は当然ですが真っ暗になります。なのでライト点けますが、その光はどう反射するのでしょう。そして鏡はそこに置いた物体をどう映し出すのか、360度ぐるり全面が合わせ鏡になるわけで、想像だにできないと思います。そしてそれを実際にやった番組があったのですが、記憶に残ったのは逆さになった立体鏡像が浮かんでいるという説明だけでした。
鏡を球体にするなんて、さすがに合わせ鏡のようにお手軽に実験はできませんね。
しかしです。しかーし! 進化したコンピュータグラフィックスはそれをいとも簡単に再現してくれるのです。
少々大げさになりました。すみません。
では、遠慮がちに小声で説明いたします。
C4d Lを使えば、鏡面の球体が簡単に作れます。もちろんその中にカメラをセッティングしてライトを照らすこともできます。すると中の映像をパソコンの画面に出してくれます。
どうですか?
見れますよ。お手軽にです。
ただーし!!
ここで急激に声の音量を上げさせてください。
C4d Lの物理シミュレーションが正しく機能しているのなら……。
と付け加えておきます。
あ、いや。正しいと思いますよ。これまで見てきた映像では目を見張るようなリアルな世界が繰り広げられていました。影の位置、濃さ。光の反射、拡散。まさに現実の世界のようでした。
だったら、球体鏡のシミュレーションだって完璧のはずです。
と何度も念を押すのは、奇妙な世界が映し出されたからです。ですので先に球体鏡内部の状況を説明させてください。そうでないと何がなんだかよくわからないものが映ります。見て理解するまでに時間が掛かるからです。
まず、内部に置くのはピラミッド型の物体です。それ以外は何もありません。カメラは球体鏡の外から中に飛び込みます。フタを開けることもなくそのまますり抜けます。これも現実の世界ではできない芸当です。
中に入るとピラミッド型の物体が球体鏡の中心でゆっくり反時計回りに回転しながら浮かんでいます。そういう状態だと素早く空間を認知してください。
その後、カメラは目の前に浮かぶ鏡像をいろんな角度から見ようと少し動いた後、ピラミッドの物体を球体鏡の底に下ろします。
たったこれだけの映像ですが、頭の中に疑問符がいっぱい出ると思います。それではどうぞ。
物体が球体鏡の中心にあるときはテレビのとおり、逆さになった立体の鏡像ができていますが、それ以外にまるで万華鏡みたいな世界が広がっているとは思ってもみませんでした。
そして球体の底に降りていくピラミッドを映し出す鏡像の不思議な姿から妖気を感じたのはワタシだけでしょうか。
観察していて気づいたのですが、球体鏡内部のどこにピラミッドを置くかで鏡像の挙動が大きく変化します。次はピラミッドを球体の中心を通る垂線の最も上部(天井)から、底に当たるまで動かします。
鏡の球体の中でピラミッドを天井から床まで動かします
どんどんいきましょう。
これも現実では絶対に不可能な映像。ピラミッドを消して鏡像だけを観察します。つまり鏡に映る物体が無いのに反射した姿が映る摩訶不思議な世界です。カメラはライトの反射と鏡像が織りなす幻想的な姿をとらえました。
物体が無いのに鏡像ができるあり得ない世界
ちなみに上下するピラミッドを追いかけるカメラが球体の外にはみ出ないようにするために、球体の直径は 18メートルになっています。そしてピラミッド型の物体も底辺が 2メートル四方で、高さも 2メートルです。もし実物を作ったら相当な費用になるでしょう。
さて……。
本当にこう見えるのかどうか、どうも信用できないのはワタシの性分で、ずっと疑念を抱いたままです。
ということで、急遽(きゅうきょ) C4d Lで合わせ鏡を作ってみました。これなら子供のころからよく実験したことがあります。必死になって自分の死に顔を探したこともありましたが、そんなもの見えるわけがないのです。いったい誰が言い出したのでしょうね。反射する光が減衰していき最後はうっすらと青黒く血色の悪い顔になっていくからでしょう。
さっそく C4d Lで合わせ鏡を作ってみました。自分の記憶にあるものと同じものが映し出されたのなら、球体鏡の映像も、 まあ、本物でしょう 。
なるほど……。
確かに合わせ鏡です 。
ですが…… 。
現実と異なる部分を見つけました 。
現実世界で合わせ鏡をすると、光の反射が無限に続く不思議な現象になるのですが、やはりコンピューターによるシミュレーションですね。鏡面反射の回数や光の計算に要する頻度が有限になっています。例えば次の写真は計算回数が異なる結果です。
左が『光の計算回数=15』『鏡面反射の計算回数=5』でレンダリングした結果です。
そして右が『光の計算回数=100』『鏡面反射の計算回数=100』でレンダリングしました。
その差は歴然としています。計算回数が多いほど反射が奥へ続いています。その分レンダリングに時間を消費しますので、今回は【鏡面反射の計算回数】を『25』にしてレンダリングしました。
ということでシミュレーションとしては、ちゃんと合わせ鏡なっています。
…… おもしろい 。
ということで、鏡遊びをもう一つ思い浮かべました。
今度は鏡をピラミッド型にして、その中に球体を入れてみました。
カメラは最初、球体を上から捉え、徐々に下に降りて、最後はピラミッドの頂点がカメラの真上に来るように動きます。
まさに万華鏡、あるいは原子核の周りを飛ぶ電子の気分です。
ところで、C4d Lを使って鏡を作るのは簡単です。
球体鏡なら球体を、合わせ鏡なら厚みの薄い立方体を 2枚作って、鏡面反射の強いマテリアルを作ってライトに当てるだけです。設定は以下のようにしてみました。
〇【反射】チャンネルに『Beckmann』レイヤーを追加。
〇【減衰】は『平均』
〇【表面粗さ】は『0%』
〇【鏡面反射強度】は『75%』
〇【スペキュラ強度】は『0%』
〇【バンプ強度】は『0%』
あとはピラミッド型のオブジェクトを作り、面の区別がつくようにいくつかの表面を色分けしています。そしてライトは 3つ。左右と真下。一つだけ『影』を出力させています。影の種類は『レイトレース(ハード)』です。 そしてカメラを適当な位置に設置して、気が済むまで眺めたらオーケーです。
ワタシの場合は、カメラを動かしたりピラミッドを動かしたりして視点の変化を動画として作り上げました。
合わせ鏡のセッティングはこんな感じです。
最終的には、AEに取り込んで、QickTimeでレンダリングとエンコード後、もう一度 AEに取り込んで少々お化粧をしてから mp4に再エンコードして作っています。
球体鏡のレンダリングは 1時間 33分もかかりましたが、合わせ鏡は 24分 5秒で完了しました。映像サイズは 1280px×720pxです。
次回はもっと面白い鏡を考えました。これも 3DCGでないと製作費用のかさばりそうなモノです。おたのしみに。